「出窓の家」
マンションの一室という限られた場所、限られた予算、賃貸という条件の中で、「家具的な空間の挿入」という最小限の操作で最大限の効果を獲得するという手法の提案は、冷静かつ的確な視点を持った優れたものである。
室内面積に対して広いテラスを持つという建物のコンテクストを読み取り、「出窓」という空間言語に翻訳している点も高く評価できる。家具よりも少し大きく、インテリアよりは少し小さい提案の大きさは、そのスケール感も絶妙である。同時にこの手法は今回の計画のみならず様々な案件に適応可能な汎用性を持ち、ストックの活用といった昨今の社会的課題への回答としても非常に示唆に富んでいる。
ただ一方で、提案範囲を絞るということは、アイデアそのものよりも提案した「モノ」が評価の対象になってしまうことが避けられない。今回はアイデアコンペではなく実施コンペである。アイデアのクオリティとモノとしてのクオリティ、その両方が案の強度となる。今回の提案は、学生故の経験の少なさが、私たち審査員を納得させるクオリティに至らなかったことが悔やまれる。
「暗がりに住む」
立地や居室の面積などによって想定される住まい手の生活スタイルから、「日の出ている時間はほとんど外にいる」というキーワードを導き出し、「暗いこと」を前向きに評価し、デザインに持ち込もうという視点がとても面白い。日光の動きと、それによってもたらされる光の様相を丁寧に取り扱い、一般的にはマイナスに捉えられがちな点を積極的に取扱う姿勢は、美しいドローイング、「あさぼらけ書斎」や「夕暮れキッチン」といったネーミングも相まって非常に魅力的に見えた。二枚の壁で空間を分節するだけで多様な光と闇との戯れを実現している手法も、シンプルで強度がある。惜しかったのは、暗がりに注視するあまり、玄関に入ったらいきなりベッドが置いてあったりと、そこで行われる「生活」への視点が希薄に見えてしまった点である。それぞれの断片のシーンは非常に魅力的であったが、その総体としてのシークエンシャルな体験にまで思考が及んでいることが重要であろう。
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